基礎知識

南海トラフ地震などの巨大地震の「半割れ」とは?

「全割れ」と「半割れ」の違いとは?

南海トラフ地震などの巨大地震において、プレート境界面付近の想定震源域が一気にすべてずれ動いた場合を「全割れ」、想定震源域の一部がずれ動いた場合を「半割れ」と言います。地震学の関係者の間では地震が起きることを「割れる」と表現することがあることから、「全割れ」や「半割れ」と呼ばれるようになりました。

国公表の被害想定は「全割れ」を想定したもの

静岡県の駿河湾から九州の日向灘にかけてつながるプレート境界「南海トラフ」でおきる巨大地震について、国は2012年に被害想定を公表しました。マグニチュード9クラスの巨大地震で、各地を震度7の激しい揺れや大津波が襲い、死者は最悪の場合32万3000人という想定です。

実はこの国の被害想定は、「全割れ」を想定したものなのです。一方で、国や専門家が強い警戒を呼びかけるもう1つのケースが「半割れ」です。

1回目の「半割れ」の地震のあと、まだずれ動いていない領域で地震が発生。マグニチュード8クラスの巨大地震が相次ぐ…。このケースで怖いのは、地震や津波で大きな被害が出ている地域の救出や支援、復旧活動をしている間に、被害が出ていなかった別の地域でも地震が発生することです。

復旧活動の途中で2度にわたって激しい揺れや大津波に襲われる地域もあるほか、他県などからの救助や医療支援の手が十分行き届かなくなり、最悪の場合、経済損失額(GDP)は年間100兆円以上にのぼるなど、被害の長期化が懸念されるのです。

実はこの「半割れ」、過去の歴史でも頻発していることが、国や専門家などが警戒を呼びかけているゆえんでもあります。

過去の地震の多くが「半割れ」だった

比較的、確実性の高い直近300年ほどを見ると「全割れ」のケースが該当するのは1707年の「宝永地震」のみ。それに対し「半割れ」は、江戸時代の1854年に起きた「安政東海地震」と「安政南海地震」。1944年「昭和東南海地震」と1946年「昭和南海地震」のあわせて4例が挙げられます。

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過去の「半割れ」地震の被害は?

安政東海地震・安政南海地震

1854年12月23日に発生した「安政東海地震」は紀伊半島東部の沖合から駿河湾にかけての領域が震源域となりました。南海トラフの「東側」です。地震の規模はマグニチュード8.4と推定。各地で激しい揺れや津波に襲われたとされています。

そのわずか30時間後に発生したのが「安政南海地震」。震源域は紀伊半島から四国の沖合にかけてで、まだ地震が起きていなかった震源域の「西側」にあたります。地震の規模はマグニチュード8.4と推定。マグニチュード8を超える巨大地震が1日余りの間に2度も日本列島を襲ったのです。

昭和東南海地震・昭和南海地震

「半割れ」ケースは終戦前後にも起きています。1944年12月7日の「昭和東南海地震」。紀伊半島の沖合から遠州灘を震源とし、マグニチュードは7.9。東海地方を中心に激しい揺れや津波で1200人以上が亡くなったといわれています。戦時中だったため、当時、詳しい被害が公表されなかった「隠された地震」としても知られています。

そして2年後の1946年12月21日はマグニチュード8.0の「昭和南海地震」が発生。まだ地震が起きていない震源域の西側にあたる紀伊半島南西部から四国の太平洋沿岸を含む領域で発生しました。西日本の広い範囲に大きな被害をもたらし、過去の南海トラフの大規模な地震の中では最も直近に起きたものです。

「半割れ」が連続する確率は?

過去の事例のように、「半割れ」の地震が連続する可能性はどれほどあるのか。東北大学などの研究グループは、世界で過去に発生したマグニチュード7以上の地震およそ1500回分の統計データと、1361年「正平(康安)東海地震」以降の南海トラフにおける地震の発生履歴をもとに確率を初めて算出しました。

それによると、1日以内に連続して大地震が発生する確率は1.4%~64%で平時に比べて460倍から21000倍。1週間以内に連続する確率は2.1%~77%で、平時と比べて99倍から3600倍。また3年以内に連続する確率も4.3%~96%と高くなりました。

最新の研究でも、南海トラフでは「半割れ」の地震が連続的に発生しやすいことがわかってきました。気象庁も、「半割れ」の地震が確認され、巨大地震が連続する可能性が高まった場合には「南海トラフ地震臨時情報 巨大地震警戒」という情報を発表し警戒を呼びかけるとしています。

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