基礎知識

南海トラフ巨大地震とは?臨時情報とは?発生確率・被害想定は?

南海トラフ巨大地震とは?

静岡県の駿河湾から九州の日向灘にかけての海底には、日本列島のある陸側のユーラシアプレートの下に海側のフィリピン海プレートが沈み込んでいる溝のような地形「南海トラフ」があります。

このプレートの境界には少しずつ「ひずみ」がたまっていて、限界に達すると一気にずれ動き、巨大地震が発生します。これが「南海トラフの巨大地震」です。

南海トラフでは、100年から150年ほどの間隔で、マグニチュード8クラスの巨大地震が繰り返し発生しています。最も新しいところでは、昭和21年(1946)に西日本の広い範囲に大きな被害をもたらしたマグニチュード8.0の「昭和南海地震」が起きています。

南海トラフで起きた地震

  • 684年 白鳳(天武)地震
  • 887年 仁和地震
  • 1096年 永長東海地震
  • 1099年 康和南海地震
  • 1361年 正平(康安)東海地震
  • 1361年 正平(康安)南海地震
  • 1498年 明応地震
  • 1605年 慶長地震
  • 1707年 宝永地震
  • 1854年 安政東海地震
  • 1854年 安政南海地震
  • 1944年 昭和東南海地震
  • 1946年 昭和南海地震

発生確率・被害想定は?

政府の地震調査委員会は、マグニチュード8から9の巨大地震が今後30年以内に「70%から80%」の確率で発生すると予測していて、被害は、四国や近畿、東海などの広域に及び、東日本大震災を大きく上回ると想定しています。

南海トラフ巨大地震が起きると各地を激しい揺れが襲うとともに、沿岸部には最大で30メートルを超える巨大津波が押し寄せるとされています。

最悪の場合、関東から九州にかけての30の都府県で合わせておよそ32万3,000人が死亡し、揺れや火災、津波などで238万棟余りの建物が全壊したり焼失したりすると推計されています。また、地震発生から1週間で、避難所や親戚の家などに避難する人の数は最大で950万人。およそ9,600万食の食料が不足するとされています。

さらに、被害を受けた施設の復旧費用や企業や従業員への影響も加えると、経済的な被害は国家予算の2倍以上にあたる総額220兆3,000億円に上るとされています。

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南海トラフ地震 臨時情報とは?

気象庁は、南海トラフ巨大地震が発生する可能性が、ふだんと比べて高まったと評価された場合に「南海トラフ地震臨時情報」を発表します。

巨大地震警戒

想定震源域の半分程度がずれ動くなど陸側のプレートと海側のプレートの境目でマグニチュード8.0以上の地震が起き、次の巨大地震に対して警戒が必要とされた場合に発表されます。国のガイドラインが示した防災対応は「地震が発生した時に津波からの避難が明らかに間に合わない地域の住民は事前に避難する」などです。

巨大地震注意

プレートの境目でマグニチュード7.0以上8.0未満の地震が起きたり、想定震源域の周辺でマグニチュード7.0以上の地震が起きたりして、その後の巨大地震に注意が必要とされた場合に発表されます。この場合の防災対応は「日頃からの備えを再確認し、必要に応じて自主的に避難する」です。

また、揺れを伴わずにプレートの境目がゆっくりとずれ動く「ゆっくりすべり」が通常とは異なる場所などで観測された場合も「巨大地震注意」の情報が発表されます。この場合の防災対応は「避難場所や家具の固定を確かめるなど、日頃からの備えを再確認する」です。

自治体や住民などが取るべき防災対応

南海トラフ地震 臨時情報が出た際に自治体や住民などが取るべき対応について政府の中央防災会議は、2019年5月、国の防災計画に盛り込みました。計画では臨時情報が発表されるケースを3つに分けて、それぞれの防災対応を示しています。

<ケース1> M8.0以上

まず、南海トラフの想定震源域の半分程度が先行してずれ動くなど、陸側のプレートと海側のプレートの境目でマグニチュード8.0以上の地震が発生し、残りの震源域で巨大地震が懸念されるケースです。

最初の地震で大きな被害が及んでいない地域でも、次の地震に備えて「住民はあらかじめ避難する」としました。

対象となる地域は「地震発生から30分以内に、津波で30センチ以上浸水する地域」で、このうち▽住民全員が避難するのか、▽避難に時間がかかる高齢者などに限って避難するかは、津波避難施設の整備状況や避難経路など地域の実情に応じて検討するとしています。避難の期間は「1週間」としています。

このほか地震の激しい揺れで土砂災害の危険性があるため、高齢者や障害者などが入居している施設が土砂災害警戒区域にある場合、利用者の安全の確保を検討することが望ましいとしています。

また、企業に対しては▽不特定多数の人が利用する施設や危険物を取り扱う施設では火事を防ぐための点検を確実に実施すること、▽明らかに従業員などに危険が及ぶと考えられる場合、それを避ける対策を取る必要があるとしています。
そのうえで、先に起きた地震の被災地を支援するためにも企業活動を著しく制限せず、地震に備えつつ通常の社会活動をできるだけ維持することが必要だとしています。

南海トラフの震源域の半分程度がずれ動くマグニチュード8クラスの地震が起きたあと、残りの震源域で巨大地震が発生した事例は過去にも確認されています。昭和19年(1944)には「昭和東南海地震」が発生し、その2年後の昭和21年(1946)には西側の震源域で「昭和南海地震」が発生して甚大な被害が出ました。

江戸時代の1854年にも「安政東海地震」が発生した32時間後に西側の震源域で「安政南海地震」が発生し、各地が激しい揺れや津波に襲われたとされています。

<ケース2> M7.0以上

次に、プレートと呼ばれる岩盤の境目で起きるマグニチュード7.0以上8.0未満の地震や、想定震源域周辺でマグニチュード7.0以上の地震が発生したケースです。

その後の巨大地震に備えるための避難までは求めず、避難場所の確認や家具の固定など日頃からの備えを再確認したうえで必要に応じて自主的に避難するとしています。

南海トラフの震源域やその周辺で発生するマグニチュード7クラスの地震は、▽平成16年(2004)9月に紀伊半島の南東沖で発生した地震や、▽昭和43年(1968)に日向灘で起きた地震など15年に1回程度の頻度で起きています。その後、巨大地震に結びついたとする事例は確認されていませんが、平成23年(2011)に東日本大震災をもたらした東北沖の巨大地震の2日前には同じ震源域でマグニチュード7.3の大地震が発生しています。

<ケース3> ゆっくりすべり

そして、プレートの境目がゆっくりとずれ動く「ゆっくりすべり」が通常とは異なる場所などで観測されたケースです。この場合は地震に対する日頃からの備えを確認するとしています。

「ゆっくりすべり」については現時点で大規模地震の発生可能性を定量的に評価する手法はないとしています。

不確実性のある情報 ふだんの備えが重要

南海トラフ地震臨時情報は、あくまでも「ふだんと比べて、相対的に発生可能性が高まった」という不確実性のある情報です。

臨時情報が発表されないまま、いきなり巨大地震が発生する可能性もあります。また、臨時情報が発表されても地震が起きないという「空振り」も考えられるほか、情報に基づく防災対応期間が終わった後で巨大地震に襲われることもありえます。

このため、国が示したガイドラインでは「臨時情報を活用して被害を軽減につなげることが重要だ」としつつも「ふだんから津波避難施設の整備や、建物の耐震化、家具の固定などの備えを進めることが欠かせない」としています。

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