基礎知識

流域治水とは?そのメリット・デメリットは?

防災の基礎知識

流域治水とは?

近年、地球温暖化の影響で台風や梅雨の豪雨による水害が多発かつ甚大化しています。従来より「治水」と言えば、堤防を作って河川の水を氾濫させないことに主眼が置かれていました。しかし、堤防を高くするには限界があり、また、莫大な費用と時間を要します。治水の専門家は「水をあふれさせない治水だけでは、もはや温暖化の怖さに太刀打ちできない」と言います。

そこで、今、行政で「溢れさせない治水」から「計画的に溢れさせる流域治水」へと政策の転換が進められているのです。

「流域治水」とはダムや堤防に加え、水を溢れさせる場所をあえて作り、流域全体で水を受け止めて水害を減らそうという施策です。水をあふれさせる場所は、水田など都市開発が進んでいない地域をピンポイントで選びます。このような「遊水池」を作る治水はこれまでも行われていましたが、敷地のある一部に限られていました。

茨城県・久慈川流域の「霞堤」の事例

実際に、「流域治水」の計画が進められている川があります。茨城県の久慈川流域です。久慈川は2019年の台風19号で決壊し、中流から下流にかけての広い範囲で浸水被害が起きました。これをきっかけに、国土交通省関東地方整備局が流域治水の1つとして注目したのが「霞堤(かすみてい)」と呼ばれる対策です。

この霞堤の仕組みは、上流の堤防の一部を低くして計画的に周りの水田などに水を溢れさせ、上流に水の行き場を確保することで水量を減らして、下流の住宅街などに被害が及ぶのを防ぐというものです。

実はこの「霞堤」という施策は、戦国時代から伝わる伝統的な治水方法で、甲斐(今の山梨県)の戦国大名・武田信玄が考案したものだと言われており、かつては全国各地に存在していました。

「霞堤」のメリット・デメリット

霞堤は、建設に莫大な費用と時間のかかるダムや堤防の整備より、簡単で早くできる対策として注目されています。

しかし、デメリットもあります。この霞堤は、下流の住宅を守るために上流の田畑を犠牲にするという考え方にほかならないからです。農家の人たちにとっては複雑な心境だと思います。

かつて、江戸時代には火事が起きると、町火消したちが延焼を防ぐために家を取り壊したと言われています。社会全体で災害をできるだけ小さくするために、誰かの家が犠牲になるわけです。

現代社会ではなかなか受け入れがたいシステムかもしれませんが、補償問題を整備することで緊急事態の際の選択肢のひとつとすべきなのかもしれません。

「流域治水」に関するオススメの参考書籍

※Amazonより

流域治水がひらく川と人との関係: 2020年球磨川水害の経験に学ぶ


流域治水がひらく川と人との関係: 2020年球磨川水害の経験に学ぶ

2020年7月4日九州で球磨川水害が発生し、50名もの方が亡くなった。この人たちはなぜ・どのようにして亡くなったのか。研究者と被災者たちによる共同調査から明らかにする。また2021年4月流域治水関連法が成立。国の治水方針の大転換であるが、本書は流域治水の歴史と意義、その可能性について詳述している。亡くなられた一人ひとりに目を向けた、それも被災当事者を交えた調査のとりまとめとしても、流域治水の総合的な解説書としてもはじめてのもの。2020年球磨川水害の経験に学び、気候危機の時代に求められる流域治水を展望する。

田んぼダムで守ろう!私たちの地域と農業―流域治水で水害に挑む
(多面的機能支払活動実践マニュアル)


田んぼダムで守ろう!私たちの地域と農業―流域治水で水害に挑む

洪水と水害をとらえなおす-自然観の転換と川との共生


洪水と水害をとらえなおす-自然観の転換と川との共生

・令和2年土木学会出版文化省受賞 2021.05.17
・第74回毎日出版文化賞受賞!(自然科学部門)2020.11.3

日本人の伝統的な自然観に迫りつつ、今日頻発する水害の実態と今後の治水のあり方について論じ、ローカルな自然に根ざした自然観の再生と川との共生を展望する。大熊河川工学集大成の書。

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