基礎知識

海洋酸性化とは?そのメカニズム、生態系や自然環境への影響は?

防災の基礎知識

海洋酸性化とは?

人類のさまざまな活動によって排出される二酸化炭素は、地球温暖化を引き起こす主要な温室効果ガスであることは既に広く知られるところとなっています。その地球温暖化は、海水温の上昇や海面水位の上昇を引き起こし、既にさまざまな形で海洋環境にも影響を及ぼし始めています。さらに近年、大気中に放出された二酸化炭素を海洋が吸収していることにより引き起される問題として「海洋酸性化」が指摘されています。

海水中のpHは一般的に約8.1程度の弱アルカリ性を示し、水深が深くなるにつれてpHは低くなり、北西太平洋亜熱帯域では水深1000m付近で約7.4と最も低くなります。これは、水深が深くなるにつれて有機物の分解により海水中の酸素が消費され、全炭酸濃度が増加することによります。二酸化炭素が多く溶け込むとpHが下がり、海水のアルカリ性が弱まります。海洋酸性化の指標として用いられるpHは、水素イオン濃度の逆数の対数で定義される値で、水素イオン濃度が増えるとpHは下がります。このように海洋のpHが長期にわたって低下する現象を「海洋酸性化」と呼んでいます。

海面のpHは、産業革命前に比べてすでに0.1程度低下していると推定されています。pHの0.1の低下は水素イオン濃度で約26%の増加に相当します。また、海洋に吸収された二酸化炭素は、海洋の循環や生物活動により海洋内部に運ばれ蓄積し、海洋内部での海洋酸性化をも引き起こす可能性があると指摘されています。

海洋酸性化のメカニズム

二酸化炭素は、海面を通じて大気と海洋の間で活発に出入りしています。海洋中に溶けた二酸化炭素(CO2)は炭酸(H2CO3)となります。そして、その炭酸(H2CO3)は、さらに海洋中で水素イオン(H+)が解離した炭酸水素イオン(HCO3)や炭酸イオン(CO32-)への変化することで、化学平衡の状態を保っています。大気中の二酸化炭素が増えると、海水に溶け込む二酸化炭素も増え、海洋中の反応によって水素イオン(H+)が発生します。発生したH+の大部分は炭酸(H2CO3)へ変わることで消費されますが、一部のH+はそのまま残り、CO32-が減少します。結果としてH+が増加するためpHは低下します。

二酸化炭素(CO2)+水(H2O)⇒ 炭酸(H2CO3

炭酸(H2CO3 ⇒ 水素イオン(H+)+ 炭酸水素イオン(HCO3

炭酸(H2CO3 ⇒ 水素イオン(2H+)+ 炭酸イオン(CO32-

海洋酸性化への問題意識の高まり

海洋酸性化の可能性は、1970年代はじめにBroecker et al. (1971年)によって指摘されました。しかし、当時はまだ海水のpHを正確に測る方法が確立されていなかったため、海水の酸性化の実態を明らかにするには至りませんでした。その後、1980年代から測定手法の改良が進んで正確な観測データが得られるようになり、さらに1990年代末から2000年代はじめにかけて、海洋酸性化が海洋生物に影響を及ぼすことが指摘されはじめたことで、研究者の間で海洋酸性化への問題意識が急速に高まりました。

海洋酸性化が実際に進んでいることは、現在までにいくつかの長期的な時系列観測データから明らかになっています。また、海洋酸性化は、海洋内部でも進行していることが報告されています。さらに、数値モデルによる現在気候の再現実験や将来予測の研究も行われています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によれば、「1750年から現代までに表面海水中のpHは全海洋平均で0.1低下しており、今世紀末までにさらに0.065から0.31低下する」と予測しています[2013年時点]。

海洋酸性化は、将来大気へ排出される二酸化炭素の量に応じて進んでゆくと指摘されています。しかし、海洋酸性化の進行について、まだ実態はよく分かっていません。今後、海洋酸性化の影響が懸念されるため、海洋の監視を継続し科学的な知見を集積していくことが必要なのです。

海洋酸性化の影響

[1]地球温暖化を加速

海洋酸性化が進むと、海洋の二酸化炭素を吸収する能力が低下すると指摘されています。海洋が大気から二酸化炭素を吸収する能力が低下すると、大気中に残る二酸化炭素の割合が増えるため地球温暖化が加速することが懸念されています。

[2]生態系への影響

海洋が酸性化すると、植物プランクトン、動物プランクトン、サンゴ、貝類や甲殻類など、さまざまな海洋生物の成長や繁殖に影響が及び、海洋の生態系に大きな変化が起きる怖れがあると考えられています。

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