基礎知識

線状降水帯の発生メカニズムは?なぜ九州で発生しやすい?予測情報は?

防災の基礎知識

「線状降水帯」とは?

集中豪雨発生時に見られる現象で、線状の降水域が数時間、場合によっては数日にわたりほぼ同じ場所に停滞することにより大雨をもたらす降水域のことです。その規模は、長さ50~300キロメートル程度、幅20~50キロメートル程度にまでおよぶこともあります。日本で発生した集中豪雨のうち、台風によるものを除くと約3分の2が線状降水帯によるものであるという調査結果もあります。

「線状降水帯」についての明確な定義はありませんが、2014年8月に発生した広島豪雨災害をきっかけにしてこの言葉が使われるようになりました。

その後、2017年の九州北部豪雨や2018年の西日本豪雨、2020年の熊本豪雨はいずれも線状降水帯によるもので、7月上旬に発生。数十人以上が犠牲になるなど、大きな被害が出ました。また、東海地方では2000年9月の東海豪雨が線状降水帯によるものでした。

線状降水帯が発生するメカニズムとは?

線状降水帯が発生するメカニズムは、簡単に言えば、湿った空気が流れ込み同じ場所で上昇気流が発生することによって次々と積乱雲が発生し、その積乱雲が帯状に流れていくというものです。

では、なぜ、日本では梅雨後期に九州地方においてこの線状降水帯が発生しやすいのでしょうか!?それは、いくつかの条件が重なっているのです。その条件とは・・・

  • 暖かく湿った空気が大量に流れ込んでくること
  • 太平洋高気圧と日本海の高気圧に挟まれた梅雨前線が九州付近に停滞することにより、南からの暖かく湿った空気が同じ場所に供給され続けること

その結果、どうなるかと言うと・・・。南からの暖かく湿った空気が九州付近で梅雨前線にぶつかり上昇気流が生じて積乱雲を発生させます。積乱雲は大雨を降らせながら上空を流れて行きますが、その後も同じ場所で積乱雲が次々と発生するため雨雲は帯状になります。こうして、発達した線状降水帯により同じ場所で長時間、大雨を降らせることになるのです。

積乱雲が次々と発生しベルトコンベヤーのように流れて行く現象を「バックビルディング(後方形成)現象」と呼びます。

では、なぜ、九州地方でこの線状降水帯が発生しやすいのか?それは、太平洋と東シナ海に接しており、太平洋高気圧が日本列島の南に停滞した時に、高気圧の縁にそって暖かく湿った空気が日本に流れ込む際に、九州の西側の東シナ海上がちょうどその入口になってしまうからなのです。

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地球温暖化の影響は?

九州地方はこれまでも、梅雨末期に梅雨前線が停滞し豪雨災害に見舞われてきましたが、近年被害が深刻化している背景に何があるのでしょうか。福岡大学の守田治客員教授(気象学)は「昔からある現象だが、地球温暖化による海水温の上昇や大気中に含まれる水蒸気量の増加によって近年は発生しやすくなっており、雨の勢いも激しくなっている」と指摘しています。

また、京都大学防災研究所 中北英一教授は、「我国の水災害の原因となる現象に関しては、地球平均気温が産業革命以来4℃程度上昇すると仮定した将来予測では、全国で梅雨集中豪雨の生起回数が増えることが推測されてきている」と指摘しています。

さらに、東京大学先端科学技術研究センター・中村尚教授は、2020年7月に九州を襲った集中豪雨の原因が日本周辺の海水温の上昇にあるのではないかと考えています。実は、日本近海は世界的に見ても急速に温暖化が進んでいる地域だというのです。

海水温が1〜2度上昇するだけでも水蒸気の量が急激に増加し、豪雨をもたらす原因となっているのではないかと考えられています。

つまり、地球温暖化の影響によって梅雨末期豪雨の頻度が増し雨量も増加し、被害が深刻化しているというのです。

線状降水帯の予測について

台風に伴う豪雨予測と違い、梅雨後期の線状降水帯による豪雨の予測を行うことは、現在のところかなり難度が高いと言われています。その理由は、台風などと違って線状降水帯は規模の小さい局地的な現象だからです。

とは言っても、防災科研などのチームは現在、線状降水帯による豪雨予測に取り組んでいます。

既に、九州の9つの自治体で予測システムの実証実験が行われています。水蒸気、上空の湿度、上昇気流、対流発生、対流発達、鉛直シアの6つの条件を重ね合わせて解析し最大で15時間前に発生リスクを予測できるというものです。しかし、現在の技術ではこのシステムによる予測の的中率は1割ほどにとどまっています。つまり、予測を出しても実際は線状降水帯が発生しない空振りも多いのが現状なのです。

[2022年7月5日 追記]

気象庁は2021年度、線状降水帯が発生したことを伝える「顕著な大雨に関する気象情報」の公表を始めました。しかし、自治体にアンケートしたところ「もっと早いタイミングで出してほしい」との意見が多く集まりました。また、「今まさに大雨が降っており、災害発生の可能性が高まっているタイミングで出されても意味がない」との声も挙がりました。

そこで、2022年6月1日から新たに線状降水帯の予測を始めました。発生が予測される約12時間前〜6時間前に、「気象情報」の中で発表されます。例えば「東海地方では、○○日夜には、線状降水帯が発生して大雨災害発生の危険度が急激に高まる可能性があります」などと呼び掛けるのです。半日ほど前に情報を提供することで、早めの避難を意識してもらうことが狙いです。

なお、台風4号の接近に伴い2022年7月5日未明に確認された高知県での線状降水帯については、事前に予測情報が発表されることはありませんでした。これにより、局地的な集中豪雨の発生を察知する難しさが浮き彫りになりました。

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参考記事

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